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福岡地方裁判所小倉支部 平成7年(ワ)1323号 判決 1998年3月26日

原告

辻晴茂

右訴訟代理人弁護士

横光幸雄

被告

株式会社熊谷建設

右代表者代表取締役

熊谷隆介

右訴訟代理人弁護士

松田哲昌

被告

有限会社宏池建設

右代表者代表取締役

松尾一

右訴訟代理人弁護士

高木健康

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一一一万九五七一円及びこれに対する平成七年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金四七三万五〇九三円及びこれに対する平成七年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  敗訴の場合担保を条件とする仮執行免脱宣言(但し、被告株式会社熊谷建設につき)

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告株式会社熊谷建設(以下「被告熊谷建設」という。)は、北九州市小倉北区篠崎二丁目六番六号所在のマンション「ルネッサンス宮ノ尾Ⅰ」建築工事(以下「本件工事」といい、右工事現場を「本件工事現場」という。)の元請業者であり、被告有限会社宏池建設(以下「被告宏池建設」という。)は、その下請業者である。

原告は、本件工事現場で土木作業に従事していた者である。

2  事故の発生

原告は、平成五年一〇月六日午前一〇時二〇分ころ、本件工事現場において一輪車で正土を敷く作業に従事中、被告宏池建設の従業員である池昭二(以下「池」という。)運転のミニユンボのカウンターウェイト部分が旋回してきて原告の右手小指及び右肩に当たり(以下「本件事故」という。)、右肩腱板断裂の傷害を受けた。

3  被告らの責任

(一) 被告熊谷建設は、本件工事の元請業者として作業員の安全について万全の配慮をする義務があるところ、本件工事の統括者・安全管理者として、その従業員である古賀学(以下「古賀」という。)を本件工事現場に配置し、現場の施設を支配管理するのみならず、下請人ないし孫請人である被告宏池建設あるいは黒崎作業センターの従業員や関係者に対し、工事の施工計画、施工方法、安全管理等全般について指示命令を与えるとともに、日々のパトロールや朝礼を通じて現場作業員を直接指揮監督していたのであるから、被告熊谷建設と原告との間に直接の雇用契約はなかったものの、実質的な使用従属ないし指揮命令関係があったというべきであり、原告に対し、信義則上の安全配慮義務を負っていたものである。

しかるに、被告熊谷建設は、車両系建設機械であるミニユンボを用いて作業を行うに際し、その旋回範囲内に作業員が立ち入れないように、作業員の安全を確保する措置を講ずべき義務があるのにこれを怠り、あるいは、右のような措置をしない場合には、誘導者を配置すべき義務があるのに、誘導者も配置しなかったばかりか、合図の打ち合せ確認もしないまま、作業させた過失により、本件事故を発生させたものであるから、債務不履行責任がある。

そうでなくとも、被告熊谷建設の従業員である古賀は、本件工事現場の統括安全管理者であり、作業員の安全を管理する注意義務を負う者であるところ、車両系建設機械であるミニユンボを用いて作業を行わせるに際し、その旋回範囲内に作業員が立ち入れないよう、安全措置を講じ、もしくは誘導員を配置し、合図の打ち合わせをした上で作業を実施すべきであったにもかかわらず、これを怠った過失があるところ、業務の執行中本件事故を発生させたものであるから、被告熊谷建設には、民法七一五条の使用者責任がある。

(二) 被告宏池建設は、その従業員である池において周囲の安全を確認してミニユンボの運転をすべき注意義務があるのにこれを怠った過失により、業務の執行中本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条の使用者責任がある。

4  傷害及び治療経過

原告は、本件事故により、右肩腱板断裂の傷害を受け、平成五年一〇月一五日から平成六年六月三日まで九州労災病院に通院し、その間の同年一月二八日から同年二月一八日まで入院して治療を受けたが、同年六月三日、右肩運動制限等を残して症状が固定した。右後遺症については、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)上、労働災害身体障害等級表一二級の認定を受けた。

5  損害

(一) 治療費 七一万三六四三円

(二) 入院雑費 二万二〇〇〇円

原告の、入院期間二二日間の雑費としては、二万二〇〇〇円が相当である。

(三) 休業損害

一五八万三三七〇円

原告は、本件事故により、平成五年一〇月六日から平成六年六月三日まで、二四一日間休業を余儀なくされたところ、本件事故当時、日額六五七〇円の収入を得ていたので、原告の休業損害は、一五八万三三七〇円となる。

(四) 逸失利益

四七三万五〇九三円

原告は、本件事故当時の収入が日額六五七〇円であるところ、原告の症状固定時(平成六年六月三日)の年齢は四六歳で、六七歳までの二一年間、本件事故の後遺症により労働能力の一四パーセントを喪失したから、新ホフマン方式(係数14.104)を用いて、原告の逸失利益を算出すると、次のとおり四七三万五〇九三円となる。

(計算式) 6570円×365日×0.14×14.104=473万5093円

(五) 慰藉料

(1) 入通院分 一四〇万円

原告は、本件事故により、右肩腱板断裂の傷害を受け、前記のとおり入通院を余儀なくされたが、その間の慰藉料としては、一四〇万円が相当である。

(2) 後遺症分 一六〇万円

原告は、本件事故により受傷し、前記のとおり右肩関節の運転障害等の後遺症を残したが、右慰藉料としては、一六〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用 四七万円

原告は、本件訴訟提起にあたり、原告訴訟代理人を選任し、請求額の一割に相当する四七万円を弁護士費用として支払うことを約した。

6  損害の填補

原告は、本件事故に関し、労災保険から療養補償給付金七一万三六四三円、休業補償給付金一二五万〇九二八円(但し、特別支給金三一万二七三二円を含む。)、障害補償給付金一二二万四九二〇円(但し、特別支給金二〇万円を含む。)の合計三一八万九四九一円の支給を受けたほか、株式会社アライ工業(以下「アライ工業」という。)から六三万八六三六円の支払を受けた。

7  よって、原告は、被告熊谷建設に対し、債務不履行責任又は民法七一五条に基づく損害賠償として、被告宏池建設に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、それぞれ損害残額四七三万五〇九三円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成七年一二月から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実は認める。

なお、本件工事は、被告熊谷建設が元請けし、株式会社福田組(以下「福田組」という。)が一次下請、被告宏池建設が二次下請したものである。

2  同2及び3の各事実は否認する。

本件事故の際使用されたミニユンボのカウンターウェイト部分は、作業員の肩に当たるほど高くなく、ミニユンボのカウンターウェイトが原告の肩に当たることはあり得ない。

3  同4の事実は不知。

4  同5のうち(一)は認め、その余は争う。

5  同6の事実は認める。

三  被告らの抗弁

仮に、原告の身体にミニユンボが当たったとしても、原告が不用意にミニユンボに近づき、不自然な姿勢をとったものであるから、原告にも多大な過失があるので、原告の損害額を算定するにあたって、これを斟酌し過失相殺すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三  証拠

証拠関係は書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  当事者

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

なお、証人古賀学の証言、原告本人及び被告宏池建設代表者の各尋問の結果によれば、本件工事は、被告熊谷組を元請、福田組を下請、被告宏池組設を再下請(孫請)として施工されたこと、原告は、被告宏池建設の依頼で、アライ工業の出張所である黒崎作業センターから派遣された労務者として、本件工事に従事していたものであることが認められる。

二  本件事故の発生

甲第一号証、乙イ第一号証の一ないし五、第二号証、第三号証の二、第四号証の一ないし八、証人池昭二の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成五年一〇月六日午前八時過ぎころから、本件工事現場において、マンションの周辺整備工事として、庭を作るための正土を一輪車で運ぶ作業に従事していたこと、一方、被告宏池建設に雇用され本件工事に従事していた池は、当時ミニユンボに乗ってレバーを操作し正土を一輪車に入れる作業を行っていたこと、原告が、数回右作業をした後の午前一〇時二〇分ころ、一輪車をミニユンボの左後方に着けて、池よりミニユンボの左旋回したバケットから正土を積んでもらった後、一輪車をミニユンボの左前方にある庭まで移動させようとしたこと、その際、池が次の作業に移るべくミニユンボのバケットを正面の位置に戻そうとして、特にこれを動かす合図等をすることなく、ミニユンボを右旋回させたところ、正面位置よりも右に旋回させ過ぎたため、ミニユンボのカウンターウェイト部分をミニユンボの本体から横にはみ出させたこと、そのため右部分を後方から一輪車を握持して移動しかかっていた原告の右手小指付近に当てるに至ったことが認められる。

この点に関して、原告はカウンターウェイト部分が原告の右肩部分にも当たった旨主張し、労働者災害補償保険の災害補償給付支給請求書等(甲一)及び九州労災病院の診療録(甲六、七)中にはその原因として、ミニユンボのカウンターウェイト部分に原告の右手小指のほか右肩が当たった旨の記載がある。しかし、右各記載は、事故後、原告の右肩の痛みが発現してから、原告の供述に従って記載されたものであって、その客観性には疑問があり、また、本件事故の際に使用されていたミニユンボ(ヤンマー製バックホー、B27―1―P、ゴククローラ仕様、重量二六五〇キログラム)のカウンターウェイト部分の高さは、下端が六〇センチメートル、上端が84.5センチメートルであるところ、原告(身長一メートル六〇センチメートル)の本件事故時の姿勢をとった際の肩の高さは約一メートル二〇センチメートルであること(乙イの三の二、原告本人)、原告の肩がカウンターウェイト部分に当たるのは原告が相当不自然な姿勢をとった場合であること(甲五の一ないし五、乙イ一の六、四の九、一〇)を考慮すると、原告の右肩に、カウンターウェイト部分が当たったとするのは極めて不合理である。しかも、本件事故当日、そえだ医院を受診した際の原告の主訴は「機械で右手五指を打つ」というものであり、肩を打ったとの訴えはなく、原告は、本件事故の翌日になって初めて、右肩の痛みを訴えてそえだ医院を受診しているのである(乙イ二、医師添田修の調査嘱託の結果)。右のような諸事情に照らすと、カウンターウェイト部分が原告の右肩部分にも当たったものとは認め難いというべきである。

三  本件事故と傷害及び後遺症との因果関係

甲第二、三、六、七号証、乙第二号証、原告本人尋問の結果、北九州市東労働基準監督署長(平成八年一月三〇日付)、医師添田修及び九州労災病院医師加茂洋志の各調査嘱託の結果によれば、原告は、本件事故当日の平成五年一〇月六日、そえだ医院において、右第五指打撲の診断によりその治療を受けたが、同日夜になり、右肩部分に強い疼痛を覚えたため、翌七日、再びそえだ医院を受診したこと、その際、原告の右肩部分に打撲等の所見は認められず、また、X線写真においても特に異常は認められなかったが、原告の疼痛はその後さらに増強したため、原告は、そえだ医院の医師添田修の紹介を受けて、同月一五日、九州労災病院を受診したこと、以降同病院に通院し、同年一一月九日、関節造影検査を施行した結果、右肩腱板断裂が確認されたこと、そして、同病院では、原告の症状が軽減しなければ手術することとして、経過観察を行い、平成六年一月二八日から同年二月一八日までの間には入院したものの、その症状がかなり改善されたため、手術を中止して、以降通院によるリハビリテーションを行っていたが、平成六年六月三日には症状が固定するに至ったこと、その結果、原告には、右肩運動痛、筋力低下等による右肩運動制限(前方挙上一一〇(左一八〇)、側方挙上一一〇(左一八〇)、後方挙上二〇(左四〇)、外旋二〇、内旋六〇)の障害が残り、労災保険上労働災害障害等級表一二級六号(一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの)、同級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当する旨の認定を受けたことが認められる。

ところで、本件事故により、原告が打撲を受けた部位は、前記認定のとおり、右手小指付近であり、原告の右肩腱板断裂との因果関係が問題となるけれども、乙イ第五ないし七号証によると、肩腱板断裂は、外傷を契機として発生することが多いが、四〇歳代後半以降、肩関節を支える棘上筋腱等に変性が生じ、損傷し易くなり、明らかな外傷歴が認められないにもかかわらず変性が進行し、脆弱化した腱板に微小外傷が積み重なって発生する場合もあることが認められるところ、原告の本件事故の当時の年齢(昭和二三年二月五日生まれの満四五歳、原告本人)、前記認定のとおり、原告の右肩の痛みが本件事故当日の夜に発現し、翌七日そえだ医院の医師に肩の痛みを訴えていることが窺われること等の事実を考慮すると、原告の右肩腱板断裂は原告の右手小指付近の打撲を契機として誘発された蓋然性が高いというべきである。従って、本件事故と原告の右肩腱板断裂の傷害とは因果関係があるものと認めるのが相当である。

四  被告らの責任

1 被告宏池建設の責任

池は、車両系建設機械の運転者として、ミニユンボを操作するについては、ミニユンボの近くで共同作業を行っている原告の動静に十分に注意し、その安全を確認して、原告に接触させないように旋回等を行う注意義務があったというべきであるところ、前記認定のとおり、原告の一輪車に正土を積んだ後、次の作業に移るためバケットを正面位置に戻すべく、原告の動静に十分に注意を払わず、漫然とミニユンボを操作して、これを正面位置より右に旋回させ過ぎたため、カウンターウェイト部分をミニユンボの本体から横にはみ出させて、原告の右手小指付近に接触させたものであるから、池には、ミニユンボを旋回させるにつき過失があるといわざるを得ない。

従って、被告宏池建設は、池を雇用し、池がその業務を執行中右のような不法行為によって本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項に基づき本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。

2 被告熊谷建設の責任

証人池昭二、同古賀学の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、被告熊谷建設の工事部長である古賀は、本件工事現場の安全管理義務者であり、本件工事の現場事務所に常駐して、本件工事に従事する労務者(下請業者の作業員等も含む。)について、就労者名簿を確認するなどして管理し、また、現場を一日に何度か見てはその部下である福永を通じて、下請業者の職長に対して、その日の工事内容や注意点を指示するなどの方法で、本件工事全体を統括していたこと、池は、六、七年のミニユンボの運転歴を有するものの、車両系建設機械を運転できる法定の資格を有しておらず、本件事故当時は、それまでミニユンボを運転していた福田組の従業員に代わって急遽ミニユンボを運転していたものであり、その操作には必ずしも習熟していなかったこと、古賀において、池及び原告らが本件事故当時の作業に従事するにあたり、作業員の機械との接触防止には余り配慮していなかったことが認められ、古賀には、本件事故に際して、作業員に対する安全配慮を怠った過失があるというべきである。

また、請負人は、その判断と責任において仕事を遂行するのが原則であり、元請人と下請人ないし孫請人の被用者との間に、使用関係はないのが通常であるが、元請人が、下請人等の被用者を直接間接に指揮監督して工事を施工させているような場合には、元請人と右被用者との間に実質的な使用関係があるものとして、右被用者の不法行為について、元請人は使用者責任を免れないと解するのが相当であるところ、右認定のとおり、被告熊谷建設は、現場事務所を設置してその従業員である古賀を本件工事現場に派遣して、常駐させ、下請業者の従業員等を全般にわたって、直接間接に指揮監督して、作業に従事させていたのであるから、孫請人の従業員である池との間には実質的な使用関係にあったものというべきである。

従って、被告熊谷建設は、被用者である古賀あるいは実質上使用関係にある池が業務の執行中右のような不法行為によって本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項に基づき本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。

五  損害について

1(一)  治療費

原告が、本件事故による受傷のため、治療費用として合計七一万三六四三円を要したことは当事者間に争いがない。

(二)  入院雑費

原告は、前記認定のとおり、平成六年一月二八日から同年二月一八日までの二二日間、九州労災病院に入院しているところ、この間雑費として一日あたり一〇〇〇円の支払を余儀なくされたことが推認されるから、入院雑費として合計二万二〇〇〇円の損害を受けたものと認められる。

(三)  逸失利益

(1) 休業損害

甲第四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は、昭和二三年生まれの本件事故当時満四五歳の健康な男子であり、アライ工業の黒崎作業センターの従業員として働き、少なくとも日額六五七〇円の支給を受けていたこと、本件事故により働くことができず収入を得られなくなったことが認められるが、前記認定の原告の負傷の内容程度、治療経過等から鑑みると、本件事故による就労し得なかった期間と逸失割合は、後遺症分を除き、本件事故日である平成五年一〇月六日から平成六年二月一八日までの一三六日間につき一〇〇パーセント、同月一九日から症状固定日までの同年六月三日までの一〇五日間につき五〇パーセントとするのが相当であり、これによる休業損害は次のとおり一二三万八四四五円となる。

(計算式)

① 平成五年一〇月六日から平成六年二月一八日までの一三六日間

六五七〇円×一三六日=八九万三五二〇円

② 平成六年二月一九日から同年六月三日までの一〇五日間

6570円×105日×0.5=34万4925円

(2) 後遺症による逸失利益

前記認定の後遺症の内容程度等から鑑みると、原告は症状固定日の翌日以降一〇年間にわたり、その労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そして、原告はその間前記日額六五七〇円程度の収入を得ることができたものと推認されるので、同額を基礎として、右労働能力喪失割合を乗じ、新ホフマン方式により中間利息を控除して、右期間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、次のとおり、二六六万七三五一円となる。

(計算式) 6570円×365日×0.14×7.945=266万7351円

(但し、一円未満切り捨て。以下同じ)

(四)  慰藉料

本件事故の態様、負傷の内容程度、治療経過、後遺症の内容程度、その他諸般の事情を斟酌すると、原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料の額は、二〇〇万円をもって相当と認める。

2  過失相殺

乙イ第三号証の二、第四号証の一ないし八、証人池昭二、同古賀学の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、ユンボを操作して一輪車に正土を積む際、一輪車はユンボのキャタピラーの側面から約二メートル離れた位置に平行に着けるのが通常であること(ユンボに近い位置に一輪車を置くとユンボのアームやバケット等の操作が困難となる。)、本件事故の際使用されたミニユンボは、バケットを最も左右に旋回させた状態でも、カウンターウェイト部分がキャタピラーの側端から65.5センチメートルしかはみ出さないこと、本件事故の際、池において、ミニユンボを正面位置より、多少右に旋回させ過ぎたものの、バケットを右端まで振り切るような状態ではなかったこと、原告は池と共同で作業に従事していたのであり、原告としても、正土を一輪車に積み終わった後、ミニユンボの動静に気をつけて、その脇を間隔をとってほぼまっすぐに通行すべきであったことが認められる。右認定の諸事情に照らすと、原告は正土を一輪車に積載した後ミニユンボの脇を通行するにあたり、間隔をとって通行せず、ミニユンボに近寄り過ぎたものと推測されるのである。従って、工事中の本件事故現場の地面の整地が十分でなく、また、正土を積載した一輪車の重量のためにある程度一輪車が左右に蛇行することはあり得ること(証人池昭二)を考慮しても、原告の身体がミニユンボに接触するについては、原告においても、不用意に旋回中のミニユンボに接近し過ぎた過失があるものといわざるを得ない。

右の原告の過失を斟酌すると、その損害額から三割減ずるのが相当である。

そして、治療費及び入院雑費等の積極損害合計七三万五六四三円、逸失利益合計三九〇万五七九六円、慰藉料二〇〇万円ごとに過失相殺すると、積極損害が五一万四九五〇円、逸失利益が二七三万四〇五七円、慰藉料が一四〇万円となる。

3  損害の填補

原告は、労災保険より、療養補償給付金として七一万三六四三円、休業補償給付金として一二五万〇九二八円(但し、特別給付金三一万二七三二円を含む。)、障害補償給付金として一二二万四九二〇円(但し、特別支給金二〇万円を含む。)の支給を受け、アライ工業より、六三万八六三八円を受取ったことについては、当事者間に争いがない。

ところで、労災保険上の療養補償給付はこれに対応する積極損害(治療費、入院費等)に、休業補償給付及び障害補償給付はこれに対応する消極損害(逸失利益)にそれぞれ填補されるが、同性質を有せず、相互補完関係にない他の損害を填補するものとして取り扱うべきではなく、また、本件の場合特別支給金も本来的保険給付と同様に損害の填補の性質を有するものと解するのが相当である。

従って、右観点から損害の填補関係をみると、原告の求め得べき損害残額は、一〇一万九五七一円となる。

4  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、審理の経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、一〇万円と認めるのが相当である。

六  結論

よって、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、損害賠償残額一一一万九五七一円とこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成七年一二月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、なお、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小山邦和 裁判官永留克記 裁判官小野寺優子)

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